子どもの『なりたい職業』を国別に並べてみたら、世界が透けて見えた
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「大人になったら何になりたい?」と聞かれたとき、子どもたちが何と答えるか。これ、毎年いろんな機関が調査していて、上位の職業がランキングとして発表される。
日本でも、第一生命や日本FP協会が毎年やっていて、ニュースになる。私もなんとなく毎年見ている。「あ、今年もユーチューバーが上位なんだ」とか「保育士、ずっと1位なんだな」とか思って、それで終わる。
でも、ふと気になって、国別に並べてみたら、これがけっこうすごいことになっていた。国ごとに、子どもたちの答えがぜんぜん違う。しかも、その違いに、その国の「いま」が、けっこう露骨に映っている。
そこから少し調べていったら、最終的にウクライナの17歳の言葉に行き当たって、ちょっと言葉を失った。今日はその話を書く。
日本: サッカー選手、保育士、ユーチューバー
まず日本から。
2025年に日本FP協会が発表したランキングはこうなっている。
男子
- サッカー選手・監督
- 野球選手・監督
- 医師
- ゲーム制作関連
- 会社員・事務員 / ユーチューバー
女子
- 保育士
- 看護師 / 美容師
- 医師
- パティシエ
学研教育総合研究所の別の調査では、男女合わせた小学生の1位は 「ネット配信者」 だった。
ざっと並べただけで、いまの日本の小学生が「何を見て育っているか」が透けて見える。サッカーや野球は大谷の話題とともに国際大会でずっと注目を集めていて、ユーチューバーやネット配信者は毎日のスマホの中にいる。保育士、看護師、医師、美容師、パティシエは、テレビやドラマで描かれるリアルな「優しい仕事」のイメージだ。
つまり、日本の子どもたちの夢は、スマホとテレビの中の世界から、ほぼそのまま生まれている。「自分の生活を支えている誰か」(医師、保育士)と、「自分が憧れて見ている誰か」(スポーツ選手、配信者)の混合だ。
アメリカ: ストリーマー、医師、アスリート
アメリカの調査も見てみる。
YouGovが行った10代対象のアンケートでは、男女合わせた1位は 「プロストリーマー(配信者)」(11%)、続いて医師/看護師(8%)、ミュージシャン(7%)、俳優(7%)、プロアスリート(7%) となっていた。男子に絞れば1位はプロアスリート(12%)、女子に絞れば1位は医師/看護師(13%)だ。
アメリカも、表面的には日本に近い。配信者・アスリート・医師。「画面の中の憧れ」と「人を助ける仕事」のミックスだ。
ただ、アメリカで興味深いのは、配信者・YouTuber・インフルエンサーの比率が日本より明確に高いこと。アメリカの方が個人がコンテンツで稼ぐ仕組みが先に発達したからで、子どもたちは、それを早くから「現実的なキャリア選択」として認識している。
中国: 1位は、なんと「宇宙飛行士」
ここから、ちょっと景色が変わる。
レゴとハリス・ポーラーが2019年に米英中の3カ国で行った、子ども3,000人(8〜12歳)を対象とした共同調査がある。「宇宙飛行士・YouTuber・教師・プロアスリート・ミュージシャン」の5つから、なりたい職業を選んでもらった。
米国と英国の結果は、ほぼ同じだった。1位 YouTuber、最下位 宇宙飛行士。
中国の結果は、こうだった。
1位 宇宙飛行士 56%
YouTuberは最下位の16%。米英とまったく逆の順位になった。
しかも、調査では「人類はいつか宇宙か他の惑星に住むと思うか」「自分も宇宙に行きたいか」も聞いていて、中国の子どもの 95%が「宇宙に行きたい」 と答えている。米国は69%、英国は63%だった。
これは、いくつかの要因が重なっていると分析されている。
一つは、中国が国家プロジェクトとして宇宙開発を進めていること。独自の宇宙ステーション「天宮」の建設が進み、月面着陸計画もあり、宇宙飛行士は文字通り国家的なヒーローとして報じられている。
もう一つは、中国がSNSやショート動画(抖音=中国版TikTok)に対して、子ども向けの厳しい制限を入れていること。14歳未満は1日40分まで、夜10時から朝6時は使えない、教育コンテンツが優先的に表示される。要するに、「インフルエンサーになりたい」と思う環境を、国が意図的に削っている。
その結果、中国の子どもたちの「夢」は、国家の方針に沿ったほうに、ぐんと寄っている。
つまり、子どもの夢ランキングは、その国のメディア環境と国家戦略の鏡になっている。スマホで何が流れているか、政府が何を称揚しているか、テレビで誰が英雄として描かれているか。それらの合計が、子どもの口から「将来なりたいもの」として出てくる。
そして、ここまでは、まだ序章だった。
ウクライナ: がれきの前に立つ17歳の夢
ウクライナの状況を調べていて、ユニセフ(UNICEF)が2025年8月に発表した取材記事に行き当たった。
ウクライナ第二の都市ハルキウで、ミサイル攻撃でがれきと化した学校の前に立つ、17歳の少女ソフィアさんの写真と証言が載っていた。
彼女の将来の夢は、「子どもたちの命を救う医師になること」。
短い一文だった。
ユニセフの同じレポートによれば、ウクライナでは2022年2月の戦争激化以降、確認されているだけで 2,800校以上の教育施設が損傷または破壊されている。2025年だけで340校以上だ。学校に通えない、または防空シェルターで授業を受ける子どもたちが、何百万人もいる。
そんな環境で、彼女は「子どもの命を救う医師になりたい」と答えた。
日本やアメリカや中国の子どもたちと並べて、「ウクライナでは医師が多い」とただ書くことは、できる。けれど、そう書くと、彼女が「医師」と答えた重みが、たぶん消えてしまう。
ソフィアさんが「医師になりたい」と言うとき、彼女がそれまでに見てきたのは、テレビドラマの医師じゃない。爆撃で運ばれてくる、自分と同じくらいの年齢の子どもたちを治療する、本物の医師だ。彼女の通っていた学校は、もうない。
ウクライナの子どもたちは、もはや「メディアの中の憧れ」から夢を選んでいない。自分の目の前で起きていることを、自分の手でなんとかしたい、という願いから選んでいる。だから「医師」が多い。命を救う仕事を、彼らは現実の文脈で見ている。
そして、夢を選ぶことすらできない場所
調べていて、もう一つ、避けられない事実に行き当たった。
世界には、「将来なりたい職業」という質問自体が、成立しない場所もある。
セーブ・ザ・チルドレンの2022年の報告によれば、世界で約3億3,700万人の子どもたちが、子ども兵士を利用する武装勢力や軍が駐留する地域の近くに住んでいる。これは30年前の3倍にあたる数字だ。
子ども兵士として利用されることが確認された国は39ヶ国にのぼり、これは世界の子ども人口の半分以上(約13億人)が暮らす範囲をカバーする。アフガニスタン、シリア、イエメン、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、フィリピン、イラク、その他多くの国がそこに含まれる。
子どもが兵士になるのは、誘拐や強制によることもあれば、「家族が殺された復讐のため」「教育を受ける機会がなく他に道がないため」「飢えから逃れるため」自ら志願することもある。
彼らに「将来何になりたい?」と聞くことが、もはや残酷な質問になってしまう場所が、世界には現実にある。
結論として
国別に並べてみると、子どもの「なりたい職業」は、その国のいまを、けっこう正直に映している。
- スマホで毎日YouTuberを見ている国は、YouTuberが上位に来る。
- 政府が宇宙開発を国家事業にしている国は、宇宙飛行士が上位に来る。
- ミサイルが学校を破壊している国は、医師が上位に来る。
- 子どもが兵士にされる地域では、そもそも夢が聞かれない。
「夢ランキング」というポジティブな言葉の裏には、その国が「いま何に困っているか」「いま誰が英雄として必要とされているか」が、けっこう露骨に映っている。
ランキングは、流行を映しているように見えて、実はその社会の 「足りないもの」 を映している。
日本のランキングで「ユーチューバー」「サッカー選手」「パティシエ」が上位に並んでいるのは、たぶん、それ自体がかなり恵まれた状況の現れだ。「医師」が圧倒的1位にならないのは、命の不安が圧倒的じゃないから。「兵士」が選択肢に入ってこないのは、戦争が遠いから。
ニュースで「今年の小学生のなりたい職業ランキング」を見るときに、ちょっとだけ、そのことを思い出してもいいかもしれない。
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